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ICL(眼内コンタクトレンズ)の導入を検討しているものの、市場の実態や収益性が把握できず、意思決定を先送りにされている院長の方は少なくありません。「本当に今がICLを始めるタイミングなのか」「商圏内の患者需要はあるのか」「投資回収は見込めるのか」――そうした疑問に、客観的なデータで答える記事が、国内にはほとんど存在しない現状があります。
本記事では、世界・日本のICL市場規模に関する公的・専門機関のデータを網羅的に整理したうえで、眼科クリニックの経営判断に直結する収益構造や競合環境まで解説します。ICL導入の可否を判断するための、信頼性の高い情報を一か所に集約した記事です。
本記事は、ICL(眼内コンタクトレンズ)の新規導入または本格的な診療拡大を検討されている眼科クリニックの院長・経営責任者の方を想定読者として執筆しています。ICLは自由診療の中でも高単価・高付加価値の術式として注目されていますが、導入に際しては設備投資・人材育成・認定取得などのコストも発生します。「市場に十分な需要があるか」「競合との差別化は可能か」「収益化までの期間はどの程度か」を事前に把握することが、経営判断において不可欠です。
本記事は、市場規模・手術件数・手術単価・競合状況など多角的なデータを一か所に集約しており、ICL導入の経営判断材料としてそのままお使いいただけます。
ICL市場規模を語る際には、「グローバル市場規模(金額ベース)」と「国内の実需(手術件数・患者数)」という2つの視点を区別することが重要です。グローバル市場規模は、主に民間の市場調査機関が公表しているレポートに基づいており、レンズ・機器・関連サービスの売上高を合算した経済規模を示しています。一方、国内実需は日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)や厚生労働省の承認データ、医療機関の実績数などから読み取れます。
クリニックの経営判断においては、グローバルトレンドで市場の成長性・将来性を確認しつつ、国内データで実際の患者需要・競合環境を検証するという、2段階のアプローチが有効です。
本記事では、信頼性の高い機関・調査会社のデータを引用しています。グローバル市場データについては、Future Market Insights(FMI)およびCredence Researchの調査レポートを参照しています。国内データについては、日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)の多施設共同研究報告および文部科学省「学校保健統計調査」を使用しています。市場調査データは調査機関によって推計方法が異なるため、各数値はあくまで参考値としてご活用ください。各参照元URLは本文中に明示しています。
複数の市場調査機関の報告によれば、世界のICL(眼内コンタクトレンズ)市場規模は2024年時点で約3億3,050万米ドル(日本円換算で約500億円規模)と推計されています。調査機関によって推計値に差異はあるものの、3億〜4億米ドル台という水準で概ね一致しており、現時点での世界市場規模の目安として参考にできます。
製品カテゴリ別では、近視対応のICLが市場の主要セグメントを占めており、2032年までCAGR(年平均成長率)12.6%での成長が予測されています(Future Market Insights調べ)。また、エンドユーザー別では、眼科クリニックや外来手術センターが主要な販売先となっており、病院セクターは年率7%程度の成長率での推移が見込まれています。
| 調査機関 | 2024年市場規模(推計) | 将来予測 | CAGR |
|---|---|---|---|
| Future Market Insights | 3億3,050万米ドル(約500億円) | 11億4,180万米ドル(2034年) | 13.2% |
| Credence Research | 3億2,500万米ドル(約490億円) | 8億7,013万米ドル(2032年) | 13.1% |
| Precision Market View | 約4億米ドル(推計) | 2034年以降も成長継続予測 | 13%前後 |
※参照元:Future Market Insights / PharmiWeb.com(2024年10月):https://www.pharmiweb.com/press-release/2024-10-10/…
ICL市場は今後10年にわたって高成長が続く見通しです。Future Market Insightsのレポートでは、2024年から2034年にかけてCAGR 13.2%で成長し、2034年には市場規模が約11億4,180万米ドル(日本円換算で約1,700億円規模)に達すると予測されています。これは約10年で市場規模がおよそ3.5倍になるという試算であり、医療機器市場の中でも特に高い成長率を示しています。
また別の調査機関による推計でも2024年の約3億2,500万ドルから2032年に約8億7,013万ドルへの成長が見込まれており、CAGR 13.1%という数値で複数機関の予測が概ね一致しています。この高成長の背景には、近視人口の急増・最新型ICLの技術革新・アジア太平洋地域での普及加速という3つの構造的要因があります。
💡 成長率の解釈ポイント
CAGR 13%超という成長率は、医療機器市場の平均成長率(5〜8%程度)を大幅に上回る水準です。市場全体が拡大しているフェーズにある現在は、新規参入クリニックにとって追い風となる環境が整っています。
世界のICL市場において、最も高い成長率が期待されているのはアジア太平洋地域です。その背景には、近視の有病率が特に高い中国・日本・韓国・インドなどの人口大国が含まれていることがあります。WHO(世界保健機関)の推計によれば、2050年には世界人口の約50%が近視になると予測されており、アジア地域ではすでにその兆候が顕著です。
また、中間所得層の拡大によって医療サービスへのアクセスが向上していることや、先進的な眼科医療へのニーズが高まっていることも、この地域の市場拡大を後押ししています。日本については、後述のとおり国内市場における高い成長ポテンシャルが指摘されており、東アジア市場の中でも特に注目度の高いマーケットと評価されています。
ICL市場の供給構造において特筆すべきは、ICLの製造・販売を手がけるメーカーが世界で実質的にSTAAR Surgical(スター・サージカル)社1社に限られているという点です。同社は1982年に設立された眼内レンズ専業メーカーであり、米国FDA(食品医薬品局)より初めてICLの販売承認を受けています。ICLの正式名称「Implantable Collamer Lens」の「Collamer」は同社の素材ブランド名であり、市場自体がSTAAR Surgical社のブランド技術によって成立しています。
この独占的な市場構造は、レンズ価格の安定性というメリットをもたらす一方で、サプライチェーンが単一企業に集中するリスクも内包しています。クリニックがICLを導入する際は、STAAR Surgical Japanを通じてレンズを調達することになるため、供給リードタイム・在庫管理の体制についても事前に確認しておくことが望ましいです。
ICL市場の成長予測を踏まえたクリニック経営の収益設計については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。
ICL経営の完全ガイド|自由診療クリニックの収益設計・財務KPI・成長戦略を徹底解説
日本国内における近視人口の規模は、ICL市場の潜在的な大きさを測るうえで重要な指標です。文部科学省「学校保健統計調査」によれば、裸眼視力1.0未満の割合は幼稚園で約24%、小学校で約32%、中学校で約56%、高等学校で約62%にのぼります。近視は学齢期から急速に進行し、成人後も継続するため、将来のICL手術候補者は着実に増え続けています。
成人については、40歳以上を対象とした疫学調査では-0.5ジオプトリー(D)以上の近視有病率が41.8%と報告されており、強度近視(-5.0D未満)は約8.2%が該当します。この強度近視層はレーシック適応外となるケースが多く、ICLの主要ターゲット患者層です。日本の総人口(約1億2,000万人)のうち、近視者は5,000万人以上と推計されており、ICLの潜在市場は極めて大きいと言えます。
| 学校種別 | 裸眼視力1.0未満の割合 | ICLとの関連 |
|---|---|---|
| 幼稚園 | 約24% | この時期からの近視進行が課題に |
| 小学校 | 約32% | 近視の急速な進行が始まる時期 |
| 中学校 | 約56% | 過半数が近視――矯正需要が急増 |
| 高等学校 | 約62% | 将来のICL候補者が最も多い世代 |
| 成人(40歳以上) | 約41.8%(有病率) | 強度近視8.2%がICL主要ターゲット |
※参照元:文部科学省「学校保健統計調査」/成人データは多治見スタディ(岐阜県多治見市疫学調査)より
国内のICL手術件数は、厚生労働省による承認(2010年)以降、年々増加の一途をたどっています。日本白内障屈折矯正手術学会(JSCRS)が2015年に実施した多施設前向きコホート研究では、国内42主要施設で行われた屈折矯正手術15,011眼のうち、ICLが約9%(1,319眼)を占めていたことが報告されています(参照元:http://jscrs-icl.org/contents/research.html)。
その後も普及は加速し、2024年時点では年間1万件以上のICL手術が国内で行われているとされており、かつて屈折矯正手術の代名詞であったレーシックの件数を大幅に上回る状況となっています。現在、日本の屈折矯正手術全体ではICLが約70%を占めているとも言われており、日本はICLが主流となった世界でも珍しい市場です(参照元:https://icl-souken.jp/blog/icl-case/)。
ICL総研の情報によれば、2024年時点で国内のICL累計手術件数は約2万5千件とされています。一方、世界全体では300万件以上の累計実績があり、75か国以上で承認を受けています(参照元:http://jscrs-icl.org/contents/research.html)。
日本における市場の成長余地という観点では、近視有病率(成人の約42%)から試算すると潜在患者数は数千万人規模に達します。現在の年間手術件数が1万件超であることを踏まえると、潜在患者の認知獲得・来院転換が進むにつれ、さらなる市場拡大の余地は極めて大きいと言えます。ICL市場は「普及初期〜成長期」の段階にあり、今後5〜10年で手術件数が倍増する可能性も十分に考えられます。
| 時期 | 手術件数(概況) | 主なトピック |
|---|---|---|
| 2010年 | 承認直後・件数少 | 厚生労働省がICL手術を承認 |
| 2014年 | 年間1,001眼調査(45施設) | Hole ICL(EVO ICL)承認・安全性向上 |
| 2015年 | 屈折矯正全体の約9%(1,319眼) | JSCRS多施設研究(42施設・15,011眼) |
| 2020年代前半 | レーシック件数を逆転 | SNSによる認知拡大・芸能人効果 |
| 2024年時点 | 年間1万件超(推計) | 累計約2万5千件・日本の屈折矯正手術の主流に |
※参照元:JSCRS(日本白内障屈折矯正手術学会):http://jscrs-icl.org/contents/research.html / ICL総研(眼科医監修):https://icl-souken.jp/blog/icl-case/
レーシックは2006年の厚生労働省承認後に急速に普及し、2008年頃には年間45万件近くの手術件数を記録しました。しかしその後、感染症リスクや後遺症事例の社会的問題化、過度な低価格競争による安全管理への懸念が広がり、需要は急落しました。現在のレーシック年間手術件数は約2万件前後と推定されており、ピーク時と比較して95%以上の大幅な減少となっています。
一方、ICLはレーシックが解決できない高度近視・薄い角膜への対応が可能であること、手術が可逆的(レンズを取り出せる)であること、視力矯正の精度が高いことが評価され、需要を着実に取り込んでいます。近視矯正手術を求める患者がICLへシフトするという構造的なトレンドは、今後も継続すると見られます。
ICL手術は健康保険の適用外となる完全自由診療であり、患者が費用を全額自己負担します。両眼手術の費用相場は約46万〜80万円程度(税込)となっており、乱視の有無・レンズの種類・クリニックの立地・ブランド力によって異なります。球面ICL(乱視なし)では46万〜60万円程度、トーリックICL(乱視あり)では56万〜80万円程度が目安です。
なお、ICL手術は医療費控除の対象となるため、患者側にとっては実質的な負担を軽減できる点も来院動機につながります。クリニック経営の観点からは、1症例あたり約50万〜70万円の売上が期待できる、高単価術式であることが特徴です。
| 種別 | 費用相場(両眼) | 備考 |
|---|---|---|
| 球面ICL(乱視なし) | 約46万〜60万円 | 近視のみの矯正 |
| トーリックICL(乱視あり) | 約56万〜80万円 | 近視+乱視の同時矯正 |
| 一般的な中心相場 | 約50万〜70万円 | 多くのクリニックがこの範囲 |
ICL手術の費用は大きく「レンズ代(インプラント費用)」「技術料(手術代)」「施設管理費・諸経費」の3要素から構成されています。このうち、レンズ代は患者の眼に合わせたカスタムオーダーとなるため、一定のコストが原価として発生します。STAAR Surgical社が唯一のメーカーであるため、レンズ原価には一定の水準が保たれています。
技術料は術者(医師)の専門技能に対する対価であり、執刀医の習熟度・実績・ブランド力によって設定されることが多いです。クリニックが収益性を確保するためには、レンズ調達コストを踏まえた上での適正な価格設定と、手術件数の増加による原価低減(スケールメリット)の両立が重要なポイントです。
ICLが自由診療(保険適用外)であることは、クリニック経営において複数のメリットをもたらします。まず、保険診療に伴う診療報酬の制約(点数設定・定期的な改定リスク)を受けないため、価格設定の自由度が高く、独自のサービス価値に見合った料金を設定できます。次に、診療収入が患者の自己負担として直接入金されるため、診療報酬の請求・審査・支払いというサイクルがなく、資金回収が早いという特性があります。
さらに、独自のサービスパッケージ(術後アフターケア・保証プラン・検査セット)の設計が自由に行えるため、患者満足度を高めながら付加価値を積み上げやすい点も、収益最大化の観点から重要な強みです。
自由診療の中でICLの収益性を他術式と比較すると、その優位性が明確になります。レーシックは両眼で20万〜40万円が相場であり、価格競争による低単価化が進んでいます。一方、多焦点眼内レンズ(多焦点IOL)は白内障手術との組み合わせで高単価を実現できますが、白内障を伴う患者を対象とするため、ターゲット患者層が限定されます。ICLは、近視・乱視という圧倒的に患者数の多い層をターゲットにしながら、50万〜80万円という高単価を維持できる、自由診療の中でもバランスの良い術式です。
| 術式 | 費用相場(両眼) | 保険適用 | ターゲット患者層 | 市場トレンド |
|---|---|---|---|---|
| ICL(EVO+ ICL) | 50万〜80万円 | なし(全額自己負担) | 近視・乱視(20〜45歳) | 急成長中 |
| レーシック | 20万〜40万円 | なし(全額自己負担) | 近視・軽度乱視(適応内) | 縮小傾向 |
| 多焦点眼内レンズ | 40万〜80万円 | 一部先進医療扱い | 白内障+老視(50歳以上) | 安定成長 |
| オルソケラトロジー | 年間10万〜20万円(継続) | なし | 近視の子ども・若年層 | 緩やかに成長 |
ICL手術の収益構造を踏まえた開業準備や集患設計については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。
ICL開業完全ガイド|ICLに特化した眼科クリニックを開業するための準備と集患設計
近年、近視の発症が低年齢化するとともに、若年層での強度近視(-6.0D以上)の増加が社会問題として指摘されています。スマートフォン・タブレットの長時間使用や屋外活動の減少が近視進行を加速させているとされており、文部科学省の学校保健統計でも小学生・中学生の裸眼視力低下が継続的に記録されています。
強度近視はレーシックの適応外となるケースが多く、ICLの主要ターゲットとなります。現在10代で強度近視を有する患者が、手術適応年齢(概ね18歳以上)に達していく数年後には、ICL手術を求める患者層がさらに拡大することが確実視されています。中長期的な市場成長の基盤は、すでに形成されつつあると言えます。
ICLの認知度向上において、SNS(特にInstagram・TikTok・YouTube)と芸能人・インフルエンサーの発信の影響は見逃せません。複数の著名人がICL手術を受けた体験をSNSで公開したことで、若年層(20〜30代)を中心に「近視を手術で治す」という選択肢への関心が急速に高まりました。検索需要の観点からも「ICL 手術」「ICL おすすめ クリニック」といったキーワードの検索ボリュームは増加傾向にあります。
クリニックにとっては、こうした潜在患者のWeb上での情報収集行動に対応したデジタルマーケティングが重要度を増しています。患者が「ICL」という選択肢を認知した後、「どのクリニックで受けるか」を検索するフェーズでの露出が、集患の鍵となります。
ICLの普及を技術面で後押ししているのが、最新型レンズ「EVO+ ICL(KS-AquaPORT)」の普及です。従来型ICLでは、眼房水の循環を確保するために虹彩切除術(周辺虹彩切除)が必要でしたが、EVO+ ICLではレンズ中央部のマイクロポート(小孔)によってこの処置が不要となりました。これにより、手術の低侵襲化・合併症リスクの大幅な軽減が実現しています。
JCRSのメタアナリシスによれば、Hole ICL(EVO ICL)は安全係数1.15、有効係数1.04という優れた臨床成績を示しており、99.4%の症例で高い患者満足度が得られています(参照元:http://jscrs-icl.org/contents/research.html)。高い安全性と満足度が医師・患者双方に評価され、普及を後押ししています。
ICLの潜在患者層として、現在コンタクトレンズやメガネを使用している近視患者は膨大な規模に達します。国内のコンタクトレンズユーザー数は約1,800万人以上と推計されており(業界推計値)、この層の一部がICLへのスイッチを検討する潜在顧客となります。
コンタクトレンズの年間費用(約3万〜6万円)との長期比較によって、ICLのコストパフォーマンスを訴求するアプローチが有効です。10年間のコンタクトレンズ費用が30万〜60万円に達することを踏まえれば、一度の手術で得られる「快適さ」「安全性」「長期コスト削減」の観点から乗り換えを検討する患者は、今後さらに増えると見込まれます。
ICL手術を実施するためには、医師がSTAAR Surgical社の定めるトレーニングプログラムを修了し、認定を取得することが必要です。また施設としての設備要件(前眼部OCT・手術顕微鏡など)を満たすことも求められます。国内のICL認定施設数は年々増加しており、2024年時点では都市部を中心に相当数の施設がICL手術を提供しています。
地域別では、東京・大阪・名古屋・福岡などの主要都市圏に認定施設が集中しており、地方都市や郊外エリアでは施設数が限られているのが現状です。つまり、地方・郊外エリアのクリニックにとっては、ICLを導入することで広い商圏から患者を集める「地域唯一・希少施設」としての差別化ポジションを確立しやすいという戦略的メリットがあります。
ICL市場の競合環境において、現在は大手屈折矯正専門クリニック(先進会眼科・品川近視クリニック・冨田実アイクリニック銀座など)が症例数・ブランド認知・マーケティング投資において優位な地位を占めています。これらの施設は年間数千件規模のICL手術実績を有しており、全国規模のWebマーケティングによって広域から患者を集客しています。
一方、一般眼科クリニックがICLを導入する場合、大手専門クリニックとの価格競争には参入しにくいものの、地域密着型の信頼関係・既存患者からの紹介・丁寧なアフターケアなどを強みにした独自の患者獲得モデルを構築することが可能です。「専門クリニックへの遠距離移動が億劫」「かかりつけ医に任せたい」というニーズは一定数存在します。
ICL市場における価格は、現状では一定の均衡が保たれています。両眼で50万〜70万円前後が主流であり、過去のレーシック市場のような急激な価格崩壊は今のところ起きていません。その背景には、STAAR Surgical社が唯一のメーカーであるためレンズ原価面での極端な競争余地が限られていること、手術の高い専門性ゆえに「最安値クリニック」への一極集中が起きにくい構造があることが挙げられます。
ただし、今後クリニック数が増加するにつれ、都市部での価格競争が激化する可能性は否定できません。クリニックとして参入を検討する際は、価格優位性ではなく「安全実績」「執刀医の技術」「アフターケアの充実」による価値訴求の方向性が中長期的に有効です。
⚠️ 注意事項:価格競争への参入は慎重に
ICLは自由診療のため価格設定は自由ですが、大手専門クリニックとの価格競争を主軸にした戦略は、ブランド毀損・採算悪化のリスクがあります。「地域性」「安心感」「アフターケア」での差別化が中長期的に安定した経営につながります。
競合が増えるICL市場で差別化を図り選ばれるクリニックをつくる方法については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。
ICLで差別化を図る眼科経営戦略|選ばれるクリニックが実践する5つの差別化ポイントと集患設計
ICLを導入するにあたっては、収支計画の中核となる「損益分岐点(BEP:Break Even Point)」の算定が不可欠です。一般的な考え方として、ICL導入に伴う追加の固定費・変動費(レンズ調達コスト・人件費増分・マーケティング費用・機器償却費など)の合計を、1手術あたりの粗利益で割ることで、月間の最低必要手術件数が算出されます。
例えば、月間の追加コスト合計が200万円で1手術あたりの粗利貢献が30万円であれば、損益分岐点は月7件となります(概算)。ICL手術の月間件数は、導入初期は年間30〜50件程度を目標として設定するクリニックが多く、1〜2年で安定軌道に乗せることが一般的です。具体的な数値は各クリニックのコスト構造によって異なるため、詳細な収支シミュレーションは設備メーカーの担当者や専門コンサルタントと連携して行うことを推奨します。
💡 損益分岐点の計算式(簡易版)
月間損益分岐点(件数)= 月間固定費追加分 ÷ 1手術あたり粗利貢献額。まずは自院のコスト試算を行い、「何件で黒字化するか」を把握することが導入判断の出発点です。
ICLを実施するためには、執刀医がSTAAR Surgical社の指定するトレーニングプログラムを修了し、認定を取得することが必要です。認定には「ウェットラボ(手術練習)」「見学・実習症例」などのプロセスが含まれており、一定の時間とコストを要します。
また、ICL手術に必要な主要機器として、眼内寸法測定装置(前眼部OCT)、手術顕微鏡、超音波乳化吸引装置などが必要です。既存設備の流用が可能な場合もありますが、新規設備投資が必要な場合は数百万〜数千万円規模の初期投資が見込まれます。これらの投資を回収するための手術件数・期間を事前にシミュレーションすることが、導入判断の重要なステップです。
| チェック項目 | 確認内容 | 確認方法 |
|---|---|---|
| 商圏人口・近視患者数 | 半径○km圏内の近視潜在患者数(近視有病率×商圏人口) | e-Stat(政府統計)・商圏分析ツール |
| 競合施設の状況 | 商圏内の既存ICL対応施設数・実績・価格帯 | Webリサーチ・現地調査 |
| ターゲット患者層 | 商圏内の20〜45歳人口比率(ICL主要層) | 住民基本台帳・国勢調査 |
| 認定取得状況 | 執刀医のICLライセンス有無・取得スケジュール | STAAR Surgical Japan問い合わせ |
| 必要設備の確認 | 前眼部OCT・手術顕微鏡等の既存設備との差分 | 設備メーカーへのヒアリング |
| 初期投資額 | 設備・研修・マーケティング初期費用の総額 | 見積もり取得 |
| 損益分岐点 | 月間最低手術件数の算定(固定費÷1件あたり粗利) | 収支シミュレーション |
| 資金調達計画 | 設備ローン・補助金・自己資金の配分 | 金融機関・顧問税理士に相談 |
ICL導入の可否を判断する際、自院の商圏内における市場ポテンシャルの診断は欠かせません。主なチェックポイントとして、商圏人口における近視患者の推計数(近視有病率×商圏人口)、半径10〜30km以内の既存ICL対応施設数とその実績規模、地域内の20〜40代人口比率(ICLの主要ターゲット層)などが挙げられます。
大都市圏では競合施設が多いため差別化の難易度が高くなりますが、地方都市・郊外エリアでは「地域初のICL導入施設」として集患の起爆剤になり得ます。自院の商圏特性を客観的に分析したうえで、市場参入のタイミングと戦略を設計することが重要です。
ICLは手術単価が高い分、マーケティングへの投資対効果(ROI)が取りやすい術式です。仮に1件の手術あたり売上60万円・粗利30万円とすると、患者1人の獲得に10万円のマーケティングコストをかけても粗利は20万円残ります。これはレーシックや保険診療と比べて顕著に高い投資効率です。
有効なチャネルとして、SEOによる検索流入(「ICL ○○市 クリニック」等のローカルSEO)、Googleビジネスプロフィールの最適化、術後患者の口コミ・紹介促進などが挙げられます。また、ICLに関心を持つ潜在患者は「情報収集期間が長い(2〜6か月)」傾向があるため、無料カウンセリングやWEB問い合わせへの丁寧な対応が患者転換率向上に直結します。
ICL導入を検討する際の外部コンサルタントの活用方法や選び方については以下の記事でも解説していますので、あわせてご覧ください。
ICLコンサルティング完全ガイド|眼科クリニックが成果を出す依頼先の選び方と活用法
世界のICL市場は2024年時点で約3億3,050万米ドル規模であり、2034年には約11億4,180万米ドルへの成長が予測されています(CAGR 13.2%)。日本国内でも、ICL年間手術件数は1万件超に達し、かつて市場を席巻したレーシックを大幅に上回る規模となっています。近視人口の拡大・最新型EVO+ ICLの安全性向上・SNSによる認知拡大という3つの成長エンジンが、今後も市場拡大を後押しすると見込まれます。
ICLは自由診療の中でも高単価かつ高付加価値の術式であり、地域の競合環境と自院のコスト構造を適切に分析したうえで導入を検討することが、クリニックの収益拡大に直結する可能性を持っています。特に地方・郊外エリアでは「地域唯一のICL施設」として差別化を図れるポジションも十分にあります。
本記事でご紹介したデータはあくまでも参考値であり、個別クリニックの経営判断においては、詳細な収支シミュレーション・商圏分析・設備投資計画の精査が不可欠です。ICL導入に関する具体的な検討を進める際は、STAAR Surgical Japanや眼科経営の専門コンサルタントへの相談をあわせてご活用ください。
弁護士。京都大学経済学部卒業、京都大学経営管理大学院修了(MBA)
旧司法試験合格、最高裁判所司法研修所を経て弁護士登録(日本弁護士連合会・東京弁護士会)。独立行政法人中小企業基盤整備機構では国際化支援アドバイザーとして活動。
㈱Camphor Tree において、医療分野・税理士など専門サービス業における、マーケティング・ブランディング・HP/LP 制作・SEO・コンテンツ設計など、集客から売上につながる戦略設計・実行支援を行う。